筋膜という視点から

 

「筋膜」という膜があります。

この本の表紙にあるように、背中の筋肉を包む筋膜、臀部の筋肉を包む筋膜、脚の外側部分の筋膜は、それぞれの筋肉を包みながら、ひとつに繋がっています。

 

そう考えると、ある部分の不具合が、他の部分に影響を与えることが想像できるのではないでしょうか。

個別の筋肉を考えることと、それぞれの筋肉を包む、ひと繋がりの筋膜を考えることには、大きな違いがあるのです。

 

筋膜は、身体全体に立体的に広がり、筋肉だけでなく、骨、内臓など、あらゆるものを包み、それらを一つにつなげ、位置()を決めている結合組織です。

人の形をした、立体的な蜘蛛の巣や、目の細かいハンモックのようなイメージでも良いかと思います。

 

ロルフィングでは「全体性」「統合」「つながり」「関係性」などがキーワードになります。

筋膜の連続性を知ることは、これらの意味を理解していく上での手がかりになると思います。

 

つながっているから、影響がある。

まずはシンプルに、そう考えると良いのではないでしょうか。

 

筋膜に柔軟性が戻ると、姿勢や動きは変化します。

また、筋膜という視点を持ち、上手くイメージが浮かぶだけでも、身体には変化が起きます。

 

その力を、引き出したいですね。

せっかく備わっている力なので。

 

そして、おそらく皆さんが思うよりも、筋膜は(身体は)変化しやすいものです。

それをロルフィングのセッションで実感して頂きたいと思っています。

 

ロルフィングの基本的な考え

 

身体の慢性的な痛みや、姿勢の問題に悩む方は、「施術などで良くなっても、またすぐに戻ってしまい、同じことが繰り返されるんじゃないか」と考えがちではないでしょうか。

あるいは、「きつくても頑張り続けて、良い姿勢を保たないといけない」「これまで頑張ってみたけど駄目だったから変わらない」などという考えになっていることもあるでしょう。

僕も、そんな考えを持っていた一人です。

 

身体の痛み、違和感、思い通りにならないイライラをなんとか解消したいと、ストレッチしたり、ジムでトレーニングしたり、走ったり、本を読んで、正しい姿勢や呼吸を練習したり、色々なことを試してきました。

どれをやっても上手くいかず、余計痛くなったり、苦しくなったり、疲れきって落ち込んだり、また思いついてやってみたりの繰り返しが長く続いていました。

 

そんな時に、ロルフィング10シリーズを経験し、身体の変化とともに、僕のそういった考えは変わりました。

身体は変わる。無理なく、楽に動く可能性はある。

そんなことが感じられて、身体だけでなく、自分の思い込みからも解放され、本当に楽になっていきました。

皆さんにも、そんな体験をして頂きたいと思っています。

 

ロルフィング®は、アメリカ人女性の生化学者アイダ・ロルフ博士(1896-1979)によって始められた「身体の再教育プログラム」です。

彼女は「健康な身体には、重力に調和した無理のないバランスがある」と考えました。

重力と格闘し続けている身体ではなく、重力とうまく関係を取りながら、楽に動けるのが本来の身体であると。

 

皆さんもご存知の通り、家の安定には、柱が垂直で、床が水平であることは欠かせませんね。

同じように、重力の影響をいつも受けている身体にも、重力との関係から、各部分の最適な位置、並び方があるのではないかという視点で、身体を見直したのです。

そして、筋膜という、筋肉や骨、内臓など、あらゆるものを包み、それらを一つにつなげ、形(位置)を決めている結合組織に注目しました。

 

筋膜は身体全体に立体的に広がり、身体の中にある全てのものを包み、つなげている、ひとつながりのものです。

人の形をした、立体的な蜘蛛の巣や、目の細かいハンモックのようなイメージでも良いかと思います。

筋膜は、ケガや偏った動き方などが原因で固くなり、本来の柔軟性が減ってきます。

 

そうなると、固くなった筋膜に包まれている身体の部分の動きが減り、本来の動きや機能を発揮できなくなり、最適な位置から外れます。

スムーズに動けなくなったところを補うために、無理な力を使う必要が生まれると、徐々にそこが固くなり、その影響がまた別のところにという具合に、全身に歪みが広がります。

筋膜はひとつながりなので、どの部分に問題が起きても、程度の差はあれ、他のどの部分にも影響が及ぶということです。

 彼女は、人の姿勢、身体の形を決めるはたらきを持つ、この筋膜ネットワークに、柔軟性と全体のバランスを取り戻すことで、身体の各部分が本来の位置に戻り、重力と調和した身体に戻っていくと考えました。

 

また、彼女は、姿勢(身体の形)に大きな影響を与えている日常動作の癖、習慣を見直し、身体本来のしくみに沿った動きを手にすることが必要だと考えていました。

同じところを繰り返し痛めるような場合、望ましいものではない習慣や癖が理由になっていることが多いからです。

同じスポーツを長年続けることで、偏った身体の使い方になり、たくさん使い続けた部分を痛めやすいのは想像しやすいですね。

 

同様に、日常の立ち方や座り方、歩き方などにも、ただ気付いてないだけの癖や偏りがあります。

それを無自覚に何十年と続け、身体に負担がかかっているかもしれないと想像してみて下さい。

ですから、本来の自然な動きを手にするためには、今現在、日常でどんな動き方をしていて、何が身体に起きているのかに気付くこと、そして望ましくない習慣や癖を手放すことがとても大切になります。

 

このように、筋膜へ働きかける手技の要素と、習慣を見直し、本来の動きを学ぶという運動の要素を組み合わせて行うのが、ロルフィングの特徴と言えます。

ロルフィングで、身体は変わること、自然体で楽に生きられることに気付き、心地の良い毎日を過ごしていけるお手伝いができると嬉しいです。

 

全体で一つとしての身体

 

「身体が全体で一つのものとして動いている」

当たり前のことですが、改めて意識するだけの意味があると思います。

 

ほとんどの方が、言葉では、その意味が分かるでしょう。

ただ「それを感じているか」となると、話が違ってくるのではないでしょうか。

 

身体がひとつながりだと感じられるとき、それを感じていない時とは別の感覚に包まれます。

全体で動くほど、身体の機能はより良く発揮されるのです。

 

ロルフィングでは「全体性」という視点を、特に重要だと考えています。

身体は、全体で一つのものとして機能する。

だから、ある部分の問題は、部分の問題とは片付けられない。

そういう視点です。

 

ロルフィングの内容の一つが「筋膜」のバランスを整えることです。

筋膜は、身体全体に広がり、さまざまなものを包み、それらを一つにつなぎ合わせているものです。

この筋膜の存在を知ると、身体が具体的に、ひとつながりだということがイメージしやすくなります。

ある筋膜の部分が固くなると、程度の差はあれ、筋膜全体に影響があるのです。

 

また、姿勢の改善を考える時、身体全体での良いバランスが必要になります。

例えば、足に十分な安定や支えがない時、上半身はバランスをとるために緊張します。

それが理由で肩に力が入ってしまう。

そうなると、肩だけの問題だとは言えなくなりますね。

 

そして、心と身体のつながりという視点も大切です。

不安や怖さがある時、身体が固くなるのは皆さん経験があるでしょう。

心も、身体も含めて、全体で一つの存在だということ。

それらは影響し合うものなのです。

 

「身体がつながっているのが分かる」

「知っていたはずだけど、こんな風に感じたことはなかった」

「身体がバラバラではないと感じる」

「意識や心の状態で、身体が変わるのが感じられた」

ロルフィングのセッションで、よく聞かれる感想です。

 

筋膜のバランスを整え、身体の感覚への気付きを高め、こころの状態にも目を向けてみること。

ロルフィングin京都では、そういった時間を大切にしています。

 

それらを繰り返していくと、全体で一つとして動く身体が少しずつ分かってきます。

変わるごとに、ひとつながりだと感じてなかった自分が見えてきます。

そして、つながりが増えるほど、楽に動ける身体に出会います。

 

部分を集めた身体から、つながりと調和のある身体へ。

それは、自分では知らなかった、本来の身体との出会いになります。

 

筋膜リリースとロルフィング

 

筋膜という言葉、聞かれたことはありますか。

「筋膜リリースが、肩凝りや腰痛に効果がある」というような形で、筋膜という単語が、以前よりも聞かれるようになってきました。

 

ロルフィングは、筋膜を扱うものだということで、知られている部分もあります。

「筋膜に興味を持って」と、ロルフィングを受けられる方も多いです。

 

筋膜という言葉からは、筋肉を包む膜というイメージが浮かびやすいかもしれませんね。

それも筋膜ですが、骨を包む膜も、内臓を包む膜も、そして脳を包む膜も、筋膜と捉えることができます。

 

身体のあらゆるものを包み、それらをひとつにつなげ合わせているもの。

それぞれの部分の位置を決め、人の形(姿勢)を決めるもの。

それが筋膜のポイントだと思います。

 

僕の場合は、筋膜の存在を知り、それまでの「骨が柱で、その周りに筋肉がついているという身体のイメージ」が違っていたようだ、と気付いたのを覚えています。

そして「人の形をした、立体的なクモの巣や、薄いハンモックのようなものに、筋肉や骨、内臓などが包まれて、浮かんでいる」イメージが、より実際に近いのだと思うようになりました。

 

このような、ひとつながりの筋膜のイメージが持てると、身体のどの部分の問題も、程度の差はあれ、全体に影響することが、自然と感じられてきました。

例えば、セーターの裾が引っ張られると、セーター全体の形が崩れることを想像してみてください。

または、クモの巣の一部を引っ張ると、全体の形が変わることも、皆さん一度は見たことがありますね。

 

筋膜を考えると、身体が全体で一つのものとして機能することに納得できます。

そして、それらが形(姿勢)に影響を与えることも分かってきます。

 

健康な時、筋膜には柔軟性があり、あらゆる方向に伸縮するので、身体はスムーズに、自由に動くことができます。

ところが、偏りのある動きや、ケガなどの影響で、筋膜が固くなります。

その結果、筋膜の伸び縮みできる機能が下がり、筋肉や関節の動きが少なくなってきて、様々な不調の原因になっていきます。

 

このように固くなった筋膜ですが、手技で触れることや、新しい動きをうながすことで、柔軟性や健康な機能を取り戻していきます。

ロルフィングでは、身体全体に広がる、この筋膜(結合組織)ネットワークの柔軟性を取り戻し、バランスを整えることで、姿勢や動きの改善を手にしていくのです。

 

とはいえ、ロルフィングは、筋膜リリースをすることが目的ではありません。

身体が重力と調和すること。

そして、自分自身で身体と上手に付き合い、その人らしく、健康に生きていけるようになること。

そういった目的を持つ、身体の再教育プログラムです。

 

筋膜(結合組織)ネットワークに働きかけ、柔軟性を取り戻すこと。

同時に、気付きを高め、偏った身体の使い方・動き方を手放していくこと。

そこで身体に浮かんできた新しいイメージと感覚からは、新しい動きや姿勢が現れることでしょう。

それを、ご自身で体験してみて下さい。